急性全身毒性試験とは
急性全身毒性試験は、医療機器から抽出した抽出液中に急性全身毒性を有する物質が存在しないことを確認するための試験であり、どの程度の用量で急性全身毒性を示すかを検索する医薬品や化学物質の急性毒性試験とは目的が異なります。
急性全身毒性とは、動物に被験物質 (または抽出液) の単回または継続的曝露後24時間以内に生じる毒性作用であり、動物個体の一般状態の変化、体重低下や死亡などを指標に評価します。また、病理解剖により主要器官の変化についても調べます。
試験方法
医療機器ガイダンスでは、生理食塩液(極性媒体)と植物油(非極性媒体)の2溶媒による抽出液(試験液)を用いて試験を行います。
1群5匹のマウスを用いて、生理食塩液抽出液は静脈内投与、植物油抽出液は腹腔内投与します。
いずれの抽出液も、投与液量は体重1kgあたり50mLとします。
また、生理食塩液および植物油のみを同様に投与する対照液投与群を設けます。
使用動物は、雌雄どちらを用いてもよいが、想定される医療機器がいずれかの性に用いられるものである場合、動物の性別はその性を選択することが望ましいとされています。
投与直後、4、24、48および72時間後にそれぞれ一般状態を観察し、投与翌日から3日間にわたり毎日体重を測定します。
観察期間終了時(投与3日後)には主要器官(投与部位、心臓、肺、消化管、肝臓、脾臓、腎臓、生殖器)を肉眼的に観察し、変化の有無を検査します。
死亡例についても、主要器官の肉眼的観察を実施します。
また、必要に応じて、血液学検査、血液生化学検査、尿検査および病理組織学検査を実施しますが、この場合は採取できる血液量が多いラットを用いて試験を行います。
評価項目 | 急性全身毒性 | 亜急性/亜慢性全身毒性 | 慢性全身毒性a |
---|---|---|---|
体重変化 | 要 | 要 | 要 |
一般症状観察 | 要 | 要 | 要 |
血液検査・尿検査 | b | a,b | 要 |
病理解剖学的検査 | 要 | 要 | 要 |
器官重量 | b | 要 | 要 |
病理組織学的検査 | b | a,b,c | 要,c |
a:慢性全身毒性試験は、通常、亜慢性全身毒性試験の期間延長であり、その期間は臨床曝露期間を根拠に設定する。評価項目はできる限り共通化する。
b:臨床症状が認められた場合や、当該試験より長期の試験が予定されていない場合には、ここに挙げた項目の評価も考慮するとよい。推奨される測定項目はISO 10993-11のAnnex D、EおよびFに示されている。
c:試験液を投与する群を複数設定した試験の場合、全臓器に関する病理組織学的検査は、まず対照群と最高用量群について実施し、より低い投与量群に関しては肺および影響が認められた臓器についてのみの実施でもよい。
判定方法および基準
観察期間を通して、試験液投与群の全ての動物に、溶媒対照液投与群の動物と比較して強い生物学的反応が認められない場合に、急性全身毒性はないと判定します。
一方、試験液投与群の動物が2匹以上死亡した場合、あるいは2匹以上の動物で痙攣や衰弱など著しい毒性反応を示した場合や、3匹以上の動物で最終体重が投与時体重より10%を超える減少を認めた場合は、急性全身毒性ありと判定します。
しかしながら、試験液投与群のいずれかの動物が対照液投与群の動物と比較してわずかな生物学的反応を示した場合、あるいは1匹の動物だけが強い生物学的反応または死亡が認められた場合には再試験を実施して最終判定を行う必要があります。