細胞毒性試験の目的
細胞毒性試験は、ほ乳類培養細胞に医療機器の抽出液や原料化学物質を曝露した後に生じる細胞の様々な変化 (細胞形態、コロニー数、細胞数などの変化) を指標として、細胞レベルで毒性を評価します。
また、細胞毒性試験は、すべてのカテゴリーの医療機器に必須とされる生物学的安全性評価項目です。
試験法 | 指標 | 評価方法 |
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ニュートラルレッド (NR) 法 | NR取込み量 | 定量的 |
コロニー形成法
|
コロニー数 |
|
MTT法/XTT法 | フォルマザン色素量 | 定量的 |
Elution法 | 細胞形態 | 定性的 |
直接接触法 | 細胞形態 | 定性的 |
間接接触法
|
細胞形態 |
|
細胞毒性試験の概要
細胞毒性試験で用いるほ乳類培養細胞は複数の種類が存在しますが、3種類の細胞株 (L929細胞、Balb/3T3 clone A31細胞およびV79細胞) は、ISO 10993-5および国内の医療機器ガイダンスの両方に記載されており、通常、これらの中から選択されます。
細胞毒性試験の試験法は複数が開発されており、医療機器の生物学的安全性評価を行う場合は、試験目的、被験物質の物理学的・化学的性状、医療機器の使用用途などを考慮して適切な試験法を選択する必要があります。
ISO 10993-5では、定性的な評価方法はスクリーニングに適していること、細胞毒性の決定には定量的な評価方法が推奨されることが記載されています。
また、定量的な評価方法を用いる4種類の試験法 [ニュートラルレッド法、コロニー形成法 (抽出法)、MTT法およびXTT法] の具体的手順がAnnex A~Dに記載されています。
国内の医療機器ガイダンスでは、2種類のコロニー形成法 (抽出法および直接接触法) の具体的手順が本文中に記載されていますが、眼粘膜に直接接触する医療機器および抽出中に失活することが予測される原材料を含む医療機器の場合には、コロニー形成法 (抽出法) に加えてコロニー形成法 (直接接触法) の実施も必要であることが記載されています。
また、コロニー形成法 (直接接触法) で得られた結果の評価の補足として、コロニー形成法 (セルカルチャーインサート法) は有用であることが記載されています。
細胞毒性試験で得られた結果の取扱いについては、ISO 10993-5および国内の医療機器ガイダンスともに以下のような内容が記載されています。
- 他の生物学的安全性試験の結果や最終製品の使用目的も考慮して評価を行う必要がある
- 細胞毒性作用が認められた場合、生体内における毒性の可能性を示唆する結果と解釈されるが、必ずしも医療機器として不適切であることを意味するわけではない
- 細胞毒性作用が認められた場合、培地中の血清含量に対する影響、原因物質の由来などを調べる追加試験の実施を検討すること
食品薬品安全センターの細胞毒性試験について
国内申請や米国、欧州などの海外申請において、各国での審査がスムーズに進むよう、適切な試験方法をご提案いたします。
また、コンタクトレンズ認証基準など、品目特有の通知がある場合も、それらに沿った試験方法をご提案いたします。
試験実施後のフォローアップも充実しており、細胞毒性が陽性になった場合でも、医療機器の特性やリスクに応じて適切なアドバイスを行うことが可能です。
コロニー形成法
コロニー形成法は、少ない播種細胞数で6~11日間 (細胞株により異なる) 曝露を行い、1個の細胞が増殖して形成される細胞集落 (コロニー) を数えることによって、医療機器からの溶出物または原料化学物質の細胞毒性作用を評価する試験法です。
コロニー形成法 (抽出法) は、ISO 10993-5においても定量的方法としてAnnex Bに収載されています。
抽出に血清を含む培地を用いる抽出法では、細胞を播種した翌日に培養液を培地抽出液と交換して培養を続け、約1週間後に形成されたコロニーを数えます。
ブランク (陰性対照) 群のコロニー数 (平均値) に対する各培地抽出液処理群のコロニー数 (平均値) の割合 (相対コロニー形成率、%) を求めます。
試験試料の培地抽出液中に細胞毒性作用を示す溶出物が存在する場合、抽出液濃度 (%) に依存してコロニー数が減少するため、相対コロニー形成率も同様に減少します。
相対コロニー形成率が70%未満に低下した場合、細胞毒性作用があると評価します。
また、相対コロニー形成率が50%となる抽出液濃度を求めることによって医療機器の細胞毒性作用の強度を評価します。
さらに、同時に実施した陽性対照材料のIC50と比較することにより、毒性作用の程度を知ることができます。
眼科領域で用いる医療機器や長期埋植される医療機器で推奨されている直接接触法では、培養容器の底面に置いた試験試料の上に細胞を播種したのち、培養します。培養後、抽出法と同様に形成されたコロニーを数えます。
直接接触法では、医療機器の表面における物理学的・化学的な性状が原因で細胞接着が正常に行われず、その結果としてコロニー形成に影響を及ぼす場合があります。
そのため医療機器表面における細胞付着性が未知の医療機器については、間接接触法として、セルカルチャーインサート法の実施が推奨されます。
国内の医療機器ガイダンスでは、直接接触法におけるコロニー形成率が30%未満かつ、抽出法におけるコロニー形成率が70%未満の場合、細胞毒性作用ありと評価します。
コロニー形成試験
ISO・USPの細胞毒性試験法
海外のガイダンスであるISO 10993-5およびUSP 43-NF 38 (2020) “Biological Tests/<87> Biological Reactivity Tests, In Vitro” (USP) には複数の試験法が記載されています。
コロニー形成法 (ISO 10993-5, Annex B) を除く全ての試験法は、細胞密度の高い条件下で細胞を曝露したのち、医療機器の細胞毒性作用を評価します。ISO 10993-5では、細胞毒性の決定に定量的な評価方法が推奨されており、その具体的な方法として抽出液を用いる4種類の試験法がAnnex A~Dに記載されています。
USPあるいはISO 10993-5のAnnex A~Dに記載された5種の試験法 [Elution法 (USP)、NRU法 (Annex A)、コロニー形成法 (Annex B)、MTT法 (Annex C) およびXTT法 (Annex D)]では、試験試料から得た抽出液を、細胞密度がサブコンフルエント状態の接着細胞に曝露します。
Elution法では、曝露後の細胞を位相差顕微鏡下で観察し、形態学的変化をグレード毎に点数化するため、通常、細胞毒性作用は半定量的に評価されます。
ただし、顕微鏡観察後の細胞を色素染色したのち吸光度測定を行い、色素量を数値化することにより、細胞毒性作用を定量的に評価することも可能です。
3種の試験法 (NRU法、MTT法およびXTT法) は、96ウェルマイクロプレートを用いて細胞を曝露したのち吸光度測定を行い、指標とする色素量を数値化することにより細胞毒性作用を定量的に評価する方法です。
Elution法 | 直接および間接接触法 | |
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0(None) | 細胞質内顆粒明瞭;細胞融解なし | 試料の下および周囲に変化なし |
1(Slight) | 20%以下の細胞が球状、接着性弱く細胞質内顆粒なし;所々に細胞融解あり | 試料の下に形態異常ないし細胞融解がややあり |
2(Mild) | 20%を超え、50%以下の細胞が球状、細胞質内顆粒なし、広範囲での細胞融解や細胞間間隙なし | 生育阻止円は試料の下および試料の端から0.45 cmより狭い範囲 |
3(Moderate) | 細胞がほぼ死滅 | 試料の端から0.45~1 cmまで生育阻止円形成 |
4(Severe) | 20%を超え、50%以下の細胞が球状、細胞質内顆粒なし、広範囲での細胞融解や細胞間間隙なし | 試料の端から1 cmより広範囲で生育阻止円形成 |